日本画家・笹本正明さんの絵画をご紹介します。描かれている人物のほとんどが美しき女性や子どもであることは神話性や物語性などを感じさせます。一角獣や蝶、人形や黒猫など登場するモチーフは象徴的であり、意味深で優美な世界がその作品から見て取れます。全体を覆う煌びやかな表情はこの世ではない、非現実的な空間を描いているようですね。
笹本さんのS4号サイズの「昼をいだく夜」という作品は、金色の長髪で白い服をまとった虚ろな目をした女性を、黒髪の暗い色の服をまとった別の女性が抱き寄せている場面が印象的です。黒髪の女性の視線はどこか鋭さを感じます。女性を囲むように蝶が舞っているところも麗しいですが、女性が身にまとっている服の色から、どことなく昼と夜という時間や意味を人間に擬人化し、なぞらえているのではないかと感じました。
またF50号の「アゲハ、眠るアゲハ」という作品からは、絵画空間に双子の西洋人形のような少女が座っています。絵の細部を追っていくと目玉や植物が描かれていて、主体モチーフだけでなく、脇役的なモチーフにも気が配られていることが分かります。文脈的で、読むように観る事ができるという印象も深かったです。
作品が形にならない事は、イメージで蒸散してしまうことを意味しているかもしれません。しかし既に作品として完成されている部分と、「これから」の物語を期待させるところのバランスが今回の作品の強みとも思えます。仮に笹本さんの作品にフォトリアリズムのような高い描写性が備わっていれば、この世界観には繋がらなかったかもしれないですね。