田中一村の独特の花鳥画。奄美大島に魅了された孤高の画家


田中一村写真

田中一村(たなかいっそん)(1908-1977)は、栃木県下都賀郡栃木町に、田中彌吉、セイの6人兄弟の長男として生まれています。一村の父は栃木県在住の彫刻家で、幼い頃より、父から南画(江戸時代中期以降の画派・画様で、中国画の2大流派の1つ)の指導を受け、児童画展で天皇賞という優秀な賞を受賞する上達し、7歳で雅号をもらっています。
巷では、神童と謳われるほど、幼き頃より、目を見張る画力がありました。13歳には、私立の中学校に特待生として入学。引き続き南画の制作を続けています。

18歳で東京美術大学に現役で入学するも、3ヶ月で退学。入学の前年には「全国美術家名鑑」に名前が載るほど南画の世界では有名になっています。退学した利用には、病気の家族を抱え生活を支えていたことなどが考えられています。同じ学年には、東山魁夷(ひがしやまかいい)や橋本明治、加藤栄三などがいます。

23歳で、これまでのスタイルとしていた南画を脱却していますが、後援者から支持を得ることができず、アルバイトをしながら制作し、家族を養っています。この頃から、千葉にいる親戚を頼って千葉に赴き、周りの自然や風物のスケッチを行い、新しい絵画への道を模索しています。

39歳に第19回青龍社に作品「白い花」を出品し初入選、画号をこれまでの田中米邨(たなかべいそん)から、田中一村に改めます。そのあと、何度か公募展に出品するもなんども落選を続け、50歳、1958年(昭和33年)から奄美大島を訪れ、翌年には移り住むことになります。「白い花」以降にも入選していますが、2つの作品を出品し1作品だけしか入選しなかったことに納得ができず、入選を辞退しています。

54歳の時に、名瀬市の紬工場(久野織物工場)で、染色工として働き始めます。名瀬は遠洋漁業の基地として発展した集落で、紬工場で働きながら、近くの鮮魚店に立ち寄って魚や海老などを観察しスケッチしていたそうです。また、5年働き、3年描く、2年働き、個展の費用を貯めるという計画を立てて、その計画通り、59歳の時に工場を辞めて、制作に打ち込みます。この後の3年間に「アダンの海辺の図」 などの代表作を作り出しています。そして2年後にまた、紬工場で働き始め、そして64歳で再び紬工場を辞めて、制作を開始しています。

その後、68歳の時に畑仕事中に脳溢血でか脳梗塞で倒れ、入院し、退院し、体調が回復するも、69歳の時に夕食の準備中に心不全で倒れ、亡くなっています。脳溢血や腰痛、めまい、体調を何度も崩しながら、生涯独身で、制作を続けました。






田中一村「菊図」 1915年(大正4年) 紙本着色・小色紙 個人蔵

なんと7歳の時に描いた作品。当時の落款は「米邨」です。その落款の下が切れているのは父の稲村が、手を入れたため、それを嫌がった本人は、手を入れられた部分のみ破り捨てたためです。
田中一村「菊図」 

田中一村「白い花」 1947年(昭和22年) 紙本着色・屏風 個人蔵

39歳に日本画家の川端龍子が主催する第19回青龍社に出品した田中一村の団体展デビュー作です。描かれているのはヤマボウシの美しい緑の葉と白い花。みずみずしい印象を受ける秀作ですね。

田中一村「四季草花図」 昭和20年代  紙本着色屏風 大島紬美術館蔵

描かれているのは、ケイトウ、ロウバイ、小菊、芙蓉、トロロアオイ、水仙、南天、鳳仙花などの植物です。昭和25年前後に描かれたと考えられています。 制作した当時は八面の襖を飾った作品でしたが、現在は二曲四隻の屏風に仕立てられています。
田中一村「四季草花図」

田中一村「秋晴」 1948年(昭和23年) 紙本金箔地着色・屏風(二曲一双) 個人蔵

豊かな装飾性を感じさせる大胆な構図が採用された金箔の屏風。丁寧な写生から生み出された作品で、かなりの厚塗りによって描かれています。大根のハイライトが画面の中で絶妙なアクセントとなっています。枝のシルエットがとても美しいですね。左隅に描かれれてる軍鶏にも注目です。






田中一村「ビロウとアカショウビン」 1962年(昭和37年) 絹本着色・額装 田中一村記念美術館蔵

田中一村といえば、これらの奄美大島の植物や動物などをモチーフにした芳醇なイメージの作品群なのではないでしょうか。
1958年(昭和33年)に奄美大島に渡ってからのち、1962年に制作された作品です。タイトルになっているビロウはヤシ科の常緑高木、アカショウビンはカワセミ科の鳥です。

田中一村「草花と蝶」 昭和40年代 絹本着色・額装 田中一村記念美術館蔵

ソテツ、カヤツリグサ、ハマニンドウ、ゲットウ、ノボタン、キキョウラン、ツマグロヒョウモン、イシガケチョウ、シンジュサンが描かれています。細部に渡り丁寧に描きこまれていることがわかります。
田中一村「草花と蝶」

田中一村「アダンの海辺の図」 1969年(昭和44年) 絹本着色・額装 個人蔵

田中一村61歳の時の作品。「アダンの海辺の図」 は、「クワズイモとソテツ」と対となる作品で、本人が書いた書付には「乱立する夕雲」、「海浜の白黒の砂礫」がテーマとなっていることが記されています。
田中一村「アダンの海辺の図」

田中一村「ビロウ・コンロンカに蝶」 昭和40年代 絹本着色・額装 田中一村記念美術館蔵

画面全体に描かれているビロウの葉のグラデーションがとても力強く美しいです。中央の白い花はコンロンカ、それに留まっているのは、アサギマダラという蝶です。

田中一村「クワズイモとソテツ」 1974年(昭和49年) 絹本着色・額装 個人蔵

「アダンの海辺の図」 と対となるこの作品は一村が64歳の時の作品です。フランスの素朴派の画家アンリ・ルソーのエキゾチックなジャングルを彷彿とさせます。
田中一村「クワズイモとソテツ」

田中一村「海老と熱帯魚」 1976年(昭和51年) 絹本着色・額装 田中一村記念美術館蔵

左上の五色海老、その下のシマイセ海老、中央にはウマヅラハギが描かれています。なんともエネルギッシュな一作。奄美大島を象徴するかのような海産物をぎゅっと埋め込んだような作品です。画面右に古希一村と記されているのは古希(70歳)迎える記念に描いたことを示しています。これらの作品の他に熱帯魚をモチーフとした作品を多く描いています。
田中一村「海老と熱帯魚」

いかがだったでしょうか。昭和59年にNHKの日曜美術館がきっかけとなり、田中一村の作品はここまで有名になりました。
NHKのディレクター松元邦暉が取材の途中に立ち寄った奄美大島名瀬市で一村が描いた一枚の魚のデッサンに出会いました。それから4年後、1984年12月9日に田中一村の特集が日曜美術館で放送されました。それから、再放送され、多くの視聴者を釘付けにしました。以後、多くの展覧会が各地で開催され、多くの人々を魅了してきました。
田中一村の作品は、鹿児島県、奄美大島の奄美パークに2001年にオープンした田中一村記念美術館には多くの作品が所蔵されています。
他にも、大島紬美術館に多く所蔵されています。関東では、栃木県立美術館、栃木市立とちぎ蔵の街美術館の他、中部だと愛知県のおかざき世界子ども美術博物館が所蔵しています。機会があれば訪れてみてください。






田中一村 参考文献

田中一村作品集[増補改訂版]
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日本のゴーギャン 田中一村伝 (小学館文庫)
小学館
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