マリアン・コウォジェイの迷宮。アウシュヴィッツ強制収容所の体験を元にして描かれた重々しい絵画作品


画家であり舞台デザイナーのマリアン・コウォジェイ(Marian Kolodziej)(1921-2009)は、1921年ポーランドのラシュコフに生まれています。

1940年、18歳の時に、反ナチスのポーランド地下組織を支えるボーイスカウト活動中にナチスの秘密警察に逮捕されドイツのアウシュヴィッツ強制収容所に収監され囚人の一人となりました。コウォジェイはアウシュヴィッツの初めての囚人グループとして移送され、囚人番号は432でした。絵の中の432という番号の入墨(腕に強制的に入れられる)が入っている人物はコウォジェイ自身です。

収容所では、解体作業や材料の運搬、板金など様々な労働が強制されました。その後、各収容所を転々として、アメリカ陸軍によって解放、救出される1945年5月6日までの5年間をアウシュヴィッツ強制収容所で過ごしました。なんと当時の体重は36キロだったといいます。
終戦後、ポーランドに戻り芸術大学に入り、舞台美術家のカロル・フリッチ教授の元で学びます。大学を卒業してからは、劇場で舞台美術家として活躍。グダニスクを中心に200以上の舞台美術を手がけました。

ですが、1992年に脳卒で倒れ身体の一部が不随となってしまいます。リハビリの一環としてに描き始めた絵でアウシュヴィッツでの体験をモチーフにし、あまり、うまく動かすことができない手で鉛筆を持って描き続けました。2009年に亡くなるまで、1993年から250枚以上の作品を残しています。1995年に「記憶のネガ写真:迷宮」という名の展覧会で初めて、1995年までに描かれた作品が展示されています。

作品は、1998年に、アウシュヴィッツに近いハルメンジェの聖フランシスコ教会の地下室に搬入され、自らが作品を配置して展示空間を作り出しました。同じ展示空間には、アウシュヴィッツの囚人たちが搬送された貨車や有刺鉄線、ベッドなども一緒に配置され、訪れた人たちは、強制収容所の迷路のような空間に迷い込みます。ここは2003年に一般公開されています。2009年、88歳でグダニスクの病院で亡くなるまで、聖フランシスコ教会に展示されている作品は絶えず更新されました。、コウォジェイ自身も聖フランシスコ教会に埋葬されています。

マリアン・コウォジェイのの作品に描かれた痩せ細って人間とは思えないほど不気味な多くの人物や無数の骸骨。すべて鉛筆などを中心としたモノクロームの画材によって描かれており、どの作品もただならぬ雰囲気と鬼気迫るような圧迫感、凍りつくほど冷たい寒々しさがあります。
勝手な想像から描いたのではなく、それぞれに意味があり、コウォジェイが体験してきたすべてを写真のように、また写真に限りなく近づけて描いたと言います。

日本では全く馴染みのない画家ですが、悠光堂から出版されている中丸弘子さん、グリンバーグ治子さんの編集による「囚人番号432 マリアン・コウォジェイ画集―アウシュヴィッツからの生還」という作品集がありますので、そちらで作品と経歴やマリアン・コウォジェイ自身の多く言葉が掲載されています。

    作品リスト

  • 死 合唱隊の指揮者
  • バベルの塔(Babel’s Tower)
  • パンの天秤
  • 最後の審判(Last Judgement)
  • 収容所のオーケストラ
  • Free time
  • ほとんどがユダヤ人
  • Apocalypse(黙示録)
  • 手紙を書く
  • 年老いたコウォジェイが若いコウォジェイを背負って






マリアン・コウォジェイ「死 合唱隊の指揮者」(部分)

マリアン・コウォジェイ作品

「死 合唱隊の指揮者」(部分)

マリアン・コウォジェイ「バベルの塔(Babel’s Tower)」

マリアン・コウォジェイ「バベルの塔(Babel's Tower)」

マリアン・コウォジェイ「パンの天秤」(部分)

マリアン・コウォジェイ「パンの天秤」

マリアン・コウォジェイ「最後の審判(Last Judgement)」

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マリアン・コウォジェイ「収容所のオーケストラ」(部分)

マリアン・コウォジェイ「収容所のオーケストラ」

マリアン・コウォジェイ「Free time」

マリアン・コウォジェイ「Free time(いつも人々の群れの中に)」

マリアン・コウォジェイ「ほとんどがユダヤ人」(部分)

マリアン・コウォジェイ「ほとんどがユダヤ人」






マリアン・コウォジェイ「Apocalypse(黙示録)」

マリアン・コウォジェイ「Apocalypse(黙示録)」

マリアン・コウォジェイ「手紙を書く」

マリアン・コウォジェイ「手紙を書く」

マリアン・コウォジェイ「年老いたコウォジェイが若いコウォジェイを背負って」

マリアン・コウォジェイ「年老いたコウォジェイが若いコウォジェイを背負って」

聖フランシスコ教会の展示風景

聖フランシスコ教会の展示風景

聖フランシスコ教会の展示風景

2011年には「The Labyrinth(迷宮) The Testimony of Marian Kolodziej」というマリアン・コウォジェイに迫ったドキュメンタリー映画が制作されています。以下が予告編です。iTunesで購入して見ることができます。

この記事の参考文献及びマリアン・コウォジェイ作品集

囚人番号432 マリアン・コウォジェイ画集―アウシュヴィッツからの生還
マリアン コウォジェイ
悠光堂
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作品掲載元
Wstrząsające obrazy więźnia Auschwitz narzędziem do walki z kłamstwami o Polsce. Brawo za pomysł!
Auschwitz Memorial @AuschwitzMuseum
La deportazione ad Auschwitz nelle opere di Marian Kolodziej
I labirinti di Marian
Spacer wirtualny po wystawie prac Mariana Kołodzieja
Marian Kołodziej wikipedia

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